美味しいアボカドの真実

今ではどこのスーパーに行っても、アボカドが山積みされ、ときには1個100円を切る値段で売られていることもある。ここ10年の間に、アボカドの日本での流通量はほぼ倍になっている。そのほとんどがメキシコ産。最近ではペルー産も入るようになってきたが、9割近くはメキシコからである。私は、スーパーの店頭でアボカドを手に取り、深緑の皮に張られたシールの「Hecho en Mexico」の文字を確認すると、複雑な気分になる。この1個の値段の、何パーセントが犯罪組織の懐に入っているのか、と。

 メキシコ国内のアボカドの一大産地といえばミチョアカン州。国内生産の75%を占め、その大部分が輸出に向けられている。私たちがスーパーや八百屋の店先で手に取るアボカドは、たいていミチョアカンから来ていると思って間違いない。メキシコ中西部に位置するミチョアカン州は、アボカドのほかにもイチゴやキイチゴ、レモンなどの大規模農業が盛んで、さらに鉄鉱石など地下資源も豊富、世界遺産に指定されている州都のモレリアをはじめ、観光資源にも恵まれた豊かな地方である。しかし、州内のとくに中部から西部にかけては、20年以上前から様々な麻薬密輸グループが支配し、現在では10余りの武装犯罪グループが縄張り争いを繰り返している。最近では抗争に爆発物を搭載したドローンや地雷まで使用されるようになり、文字通りの戦場と化している。

 それぞれの犯罪グループは、抗争資金源として地域のあらゆる事業者をゆすり、売り上げの一部を巻き上げている。利益率の高いアボカド農家は格好の餌食である。支払わなければ、農園を荒らされたり家族を誘拐されるなど何をされるかわからない。当局からなんの援助も得られないアボカド生産農家は2020年、みずから武装し、自警団「人民連合Pebro Unido」を立ち上げた。しかし2022年現在、このグループは地域の麻薬密輸グループのひとつに数えられる存在と化している。

 2022年2月、米国の動植物検疫局の職員が犯罪組織から脅迫電話を受けて、米国へのアボカドの輸出が一時停止された事件が起きた。これで、アボカドの流通にも犯罪組織が深くかかわっていることが海外にも知られることになったのではないだろうか。メキシコの美味しい「緑の黄金」が、人にも社会にも環境にも、いかに破壊的な発展をしてきているか、消費者であるわれわれは知っておく必要がある。

 その辺りが比較的わかりやすい記事を訳してみた。

 

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 右側がチェラン、左側がアボカド栽培のために伐採された隣村の山。

https://www.independentespanol.com/ap/aguacates-deforestacion-y-carteles-van-de-la-mano-en-mexico-b2002171.html

 

アボカド、森林破壊、そしてカルテルが、メキシコでは手を携えてやってくる

Aguacate, deforestación y carteles van de la mano en México.

Por Mark Stevenson 2022/01/27    APNews

https://apnews.com/article/noticias-cd001d9d856aaa73f433293afeffcaea

 

 メキシコ西部のこの地域では、伐採業者がアボカドを植林するために、マツ林だった山腹をすべて丸裸にしてしまう。この違法伐採を阻止するため、自ら立ち上がった村があった。アボカドは水源を枯渇させ、恐喝のための資金源を探す麻薬密輸カルテルが入りこむきっかけにもなるからだ。

 そのひとつが、ミチョアカン州の先住民村チェランである。この村では、違法伐採とアボカド植林阻止のたたかいに成功した結果、あたかも山の稜線に一本の線が引かれたようにみえる。一方は完全に伐採され、アボカドが植えられた土地、その反対側はマツ林である。これは、チェランの住民たちが10年にもわたる政治的たたかいを続け、先住民村としての自治を宣言し、自らの自治政府を樹立した成果である。

 アボカドの生産者やカルテルの武装グループからの嫌がらせに抵抗し、たたかい続ける集落はほかにもあるが、つねに暴力に脅かされている。

 

 チェランの自治農業委員会メンバー、ダビ・ラモス・ゲレロによると、村内の農業生産者はアボカドの商業生産の全面的禁止に合意しているという。「アボカドは暴力をもたらすだけだ」というのだ。

 「村内での地元消費のためだけに、3、4本、せいぜい5本、最大10本まではアボカドの栽培は許可されている。しかし、商業目的としては許可されない」

 その理由は明白である。森林地帯のパトロールに同行する間、ラモス・ゲレロは隣村のほぼ完全に伐採された谷を示した。以前はマツとモミが密生していた斜面が裸にされ、アボカドの樹の列が並んでいる。「この村は島のようなものだ。チェランの周辺はすべてアボカドだらけになってしまった」。

 ミチョアカンのマツとモミの森におおわれた爽やかな山々を歩いた経験があれば、マツの木々が暑さと水分の蒸発を防いでくれることがわかる。分厚いじゅうたんのようなマツの落ち葉の層はスポンジの役割をして、水を吸収し保持する。松の根は、水や土が斜面に落ちるのを防いでいる。

 しかし、アボカドの生産者が最初にやることは、自分の農園のための水を溜める貯水池をつくることである。それまで山林地帯の住民が利用していた小川の水を引いてくるのだ。それから、アボカド生産者を恐喝するためにカルテルがやってくる。

 「アボカドが唯一やることは、われわれの森が生み出す水を可能な限り吸い尽くすことだ。それにわれわれは気がついたのだ」とラモス・ゲレロは述べた。

 チェランは2011年に自治政府の樹立を宣言し、違法伐採業者によって使われる道路を封鎖した。現在は、掘削機を用いて、違法伐採業者が移動に用いる道沿いに溝を掘っている。村内のアボカド生産者に関しては、ラモス・ゲレロは次のように言う。「最初は話し合いで、穏やかに申し入れをする。しかし合意に至らない場合はやむをえない。門を強行突破し、アボカドの木を引き抜いたり伐ったりする」

 農家がアボカドの植林をやめることに合意しない場合は、チェランの森林警備隊が実力行使するというのだ。

 

 チェランの共同体警察は、AR-15機関銃で武装し、ピックアップトラック数台で森林をパトロールする。道路沿いで伐られて雑草で隠されたマツの切り株を発見した。木を伐っていた男2人を見つけ、斧とチェーンソーを没収した。パトロール隊は、男たちをトラックに乗らせた。男たちに対しては、次はあらかじめ許可を申請するようにと警告され、おそらく後で没収物は返還されるだろうということだった。 

 65歳のサルバドール・アビラ・マガニャは、村が2011年に蜂起する以前、チェランはどんな風だったか語った。彼は違法伐採業者から脅され、自分の土地から追い出され、土地は伐採されてしまったという。

 「もし家に戻ったら、連れて行ってしまうぞと最後には脅された。もし行ったら、ゴミ袋に入れられているのが発見されることになるぞと。何人もが殺され、あとで切断遺体になって戻されてきた」

 彼の18ヘクタールの土地は完全に伐採されてしまったが、アビラ・マガニャは「自分の子どもや孫たちに何か残すために」再び松を植林することに決めた。子孫らが樹脂や化粧品の原料となる松脂を採取できる持続可能な森林経営を続けられるように、と期待してのことである。

 「われわれは村人と話し合って、アボカドは植えないことにした。空気をきれいにしてくれる樹木だけだ」

 

 アボカドは、ミチョアカンの何千もの小規模農業生産者にとって、奇跡の農産物というべきものだった。よく手入れされたアボカドの畑を何ヘクタールか持っていれば、小規模農家でも、子どもを学校にやったり、ピックアップトラックを購入したりできる。これはほかのどの作物でも不可能なことだった。しかしアボカドは大量に水を消費するため、栽培は耕作放棄されたトウモロコシ畑よりも湿潤なマツの森林地帯へと拡大していった。

 輸出のためのアボカドは、持続可能な農園で生産されていると保障される必要があったが、生産者も輸出業者も、まともに取り組もうとはしなかった。

 

活動家への脅迫

 チェランではこれまでのところ、たたかいに勝っているが、ミチョアカンのほかの村々では、アボカド畑の侵略は続いている。

 チェランから約96.5キロ離れたビジャ・マデロ村では、活動家のギジェルモ・サウセドが、違法伐採業者や未許可のアボカド農園を摘発するために、チェランで用いられたような森林パトロール隊を創設しようとした。2021年5月からパトロールに参加する人々を60~70人集めた。しかし、12月6日、サウセドは麻薬密輸カルテルの武装グループに行く手を立ちふさがれた。サウセドによると、おそらく集会で大げさに話し過ぎて、伐採業者と手を組んだアボカド生産者ら有力者らを怒らせたのだろうという。

 事件の1か月後、サウセドは次のように語ってくれた。「白色でフロントガラスにひび割れが入った自動車が、私の目の前で横づけに停まり、SUV車数台も来た。車から3人がライフルやピストルを手に降りてきて、すぐさま安全装置を外した。正面に来た男とほかの者たちが私に銃を突きつけた。後ろの男2人が私を殴って車に乗らせ、村から連れ出した」

 車で連行される間はベストを着せられ、頭から目出し帽をかぶらされた。ライフルや短銃の尻で頭を殴られた。その後隠れ家で、逮捕されたカルテルのリーダーについてしつこく尋ねられた。しかしサウセドは、それは彼らの本当の目的を隠すための口実だったと考えている。村の組織での彼の仕事が気に入らなかったのだ。

 「殴り飽きるまで彼らは私を殴り続けた」とサウセド。数時間後、遠く離れた村の砂利道に彼は置き去りにし、誘拐されたのはライバルのカルテルのせいだと彼に言った。

 森林パトロールは中断し、サウセドは生まれ故郷の村のサンガロに戻って目立たないように暮らすしかなかった。連邦政府に保護を要請したが、今日に至るまで対応されていない。しかしメキシコでは、過去3年の間に共同体の環境活動家ら96人が殺害されているのだ。

 サウセドも環境活動家のフリオ・サントヨも、ビジャ・マデロでの麻薬密輸カルテルと違法伐採業者とアボカド農家のつながりが実際にどのようになっているのかははっきりしないという。

 しかし、犯罪組織が直接アボカド栽培に投資している可能性はある、とサントヨは考えている。ミチョアカンでは何も意外なことではない。2010年にはテンプル騎士団という別のカルテルが、鉄鉱石の採掘事業と中国への輸出を牛耳っていたのだ。 

 サウセドは、カルテルが違法伐採業者やアボカドの生産者を後押ししている、という。「彼らを保護し、恩を売っているのだ」とサウセド。確かに、州内のほかの地域では、アボカドの生産者はしばしば、果実を出荷するごとに麻薬密輸カルテルが支払いを求めてくると訴えている。このことからも、カルテルがなぜ生産が増えることを望んでいるか容易に理解することができるという。

 ビジャ・マデロも、かつてマツ林に囲まれていたが、サントヨは最近、グーグル・アースを利用してアボカド農家が農園の灌漑用に作った貯水施設が約360か所もあることを突き止めた。サウセドによると、いまでは多くのマツ林が伐採され、小川が枯れたため、アボカド生産者は深い井戸を掘るようになってきた。これでさらに地下水が減少してしまうことになる。

 昔からの地元の農家は、アボカドの栽培で深刻な影響を受けてきている。

 

 「この地の人々は伝統的に、小川の水を自分のヤギやウシやヒツジなど家畜のために利用することができた。しかしもう水はどこにもなく、水を探しにトラックやあるいは徒歩で遠くまで行かなくてはならない。ときには人の飲み水にも困るくらいだ」

 サントヨによると、彼もまた、あるカルテルから活動をやめろと、間接的に脅されたことがあるという。

  2016年に訪れたミチョアカン州のアボカドの街、ウルアパンのアボカド農園。

 

 ウルアパン周辺の街道沿いの丘陵地は、見渡す限り森林が伐採されアボカド畑に転換されていた。