組織犯罪は国の最大の資源―石油までも支配する

 ロス・セタスが資金源を多様化させているなかでも、大きな割合を占めているのが、石油やガソリンの抜き取りである。それもちょっとやそっとの量ではない。ある報道では採掘される天然ガスの4割が犯罪組織に持っていかれているところもあるという。国の歳入になり、国民の福祉や教育に使われるはずの天然資源が、犯罪組織の資金源になる――イスラム国と同じ構造。


 職員に袖の下をつかませ、「乳搾り」ならぬ「パイプ搾り」でやすやすと金を稼ぎ、それが組織の武器の購入資金にもなる。麻薬戦争が終わらない原因は、ここにもある。


 メキシコ政府は「エネルギー改革」をうたい、民間や外国資本の石油部門への投資を呼び掛けている。その一部が犯罪組織の懐に入ってしまう可能性もあるのだ。

 

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メキシコで膨大な量の石油が窃盗被害に

La pérdidas de miles de millones que causa el robo de combustible en México  (Foto: PGR) http://www.bbc.co.uk/mundo/noticias/2015/02/150128_mexico_pesadilla_robo_combustible_an

アルベルト・ナハル、BBC MUNDO、メキシコシティ

 

 「パイプ搾り」と呼ばれる、石油の窃盗。メキシコでは近年、可燃物の窃盗がますます増えており、公式発表によれば、昨年の被害額は115000万ドル以上にものぼっている。

 窃盗の大部分は麻薬密輸カルテルが行っているが、当局の調査によると、元警官、公務員、企業らがかかわるグループもあるとしている。

 当局は陸軍、海軍、連邦警察、諜報機関エージェントからなる特務班を構成して取締りに当たらせ、また議会でもこの犯罪に対する厳罰化を可決した。

 それでも燃料の盗難は増加している。炭化水素資源の採掘と販売を独占しているメキシコ石油公社(ペメックス)の発表によると、2012年、違法な抜き取りが1550か所であった。その翌年には2377か所に増え、2014年には4000か所以上にもなった。ペメックスによると、2014年のガソリンの盗難は750万バレル、1日当たり2万バレルにも達するという。

 同社部長エミリオ・ロソヤ・アウスティンは、「炭化水素の盗難は現在、会社にとって最大の問題である」と述べている。

 

ロス・セタスとゴルフォ

 アメリカ政府によれば、窃盗の大部分はロス・セタス・カルテルが行っており、盗んだガソリンや重油、原油がアメリカ合衆国の企業に売られることもある。メキシコ北東部、タマウリパス州の一部では、ゴルフォ・カルテルも行っている。

 国立犯罪学研究所の研究員マルティン・バロンによると、これは組織犯罪にとって、麻薬密輸と並ぶ、幅広い資金源のひとつだという。

 「燃料の窃盗というものを考えるなら、これは何に使われるのか、なぜほしがるのかを問う必要がある」という。「犯罪組織は、例えばさまざまな種類の麻薬の製造に大量の燃料を必要とする」。盗んだガソリンやディーゼルオイルは、カルテルの武装集団の移動や、麻薬や武器の移送などにも使われる。だが、もちろんそれだけではない。

 

汚職

 全国保安委員会と連邦検察庁のデータによると、燃料の窃盗には様々な方法があることがわかる。そのひとつは、燃料を運ぶタンク車を乗っ取るというものだ。しかしもっと一般的なのは、ペメックスの石油パイプから直接抜き取るという方法である。ペメックスには57,000キロにも及ぶさまざまな種類のパイプがあるが、そのうち監視できるのは12,700キロにすぎない。

 これらの石油パイプを通して、曜日や時間によって様々な種類の燃料が移送される。しかし犯罪組織には、自分たちがほしい種類の燃料がいつ入ってくるのかわかっているのだ。

 どうやって知るのか? 「もっとも可能性が高いのは、公社の内部に汚職があるということだ」とグアダラハラ大学の社会人文学センター研究員、アルトゥーロ・ビジャレアル・パロスはいう。

「パイプ内にいつもガソリンがあるわけではない。移送の時間は決められている。何時にガソリンが送られるのか知るには、会社の内部者や元従業員から情報を得るしかない」

 

ガソリンの品切れ

 ペメックスによると、燃料の盗難の大部分は、ロス・セタスが支配するベラクルス州とタマウリパス州で起こっている。しかしここ数か月、国内中央部のグアナフアト州や西部のハリスコ州でも被害が増えてきた。同社によると、数週間前、盗難によってプエブラ、ヌエボレオン、グアナフアト、タバスコの各州でガソリンが品切れになってしまったという。

 「ガソリン供給の遅延は、パイプ網から燃料が違法に抜き取られ、供給が中断されたことによるものである」とペメックスは声明を出した。

 

違法販売と爆発

 石油パイプから抜き取った750万バレルものガソリンを、カルテルは自分たちで使うのか? 専門家らは違う、という。量はわからないが、一部はメキシコ国内やグアテマラでヤミで売られる。とくに小さな町や道路脇で売られるのである。

 ほかにも、合法的なガソリンスタンドに無理やり買わせ、一般に販売されることがある。これはとくに犯罪集団が支配する地域で行われている。さらに犯罪グループのなかには、燃料を売るための会社を立ち上げたり、また正規の会社のロゴや設備をまねて販売店を作ったケースもある。

 専門家らによると、この問題を解決するためには、汚職を防ぐためにペメックス内部の規律を高め、同時に窃盗犯を罰する必要があるという。これは緊急の課題であると専門家らは口をそろえる。近年燃料の違法な抜き取りによってたびたび事故が起こっており、そのうちもっとも重大だったのは、プエブラ州サン・マルティン・テスメルカンで起きた爆発事故で、29人の人々が亡くなっている。