日常化する暴力――メキシコの新学期は銃撃戦自衛訓練から

8月末から始めるメキシコの新学期。この時期になると毎年、子どもたちの学用品を買い求める親たちのニュースが出る。今年はどこも全面的に対面授業が始まったが、犯罪組織が道路封鎖を行っていため、初日に登校ができなくなった地域もあった。全国の殺人件数は、ここ数年やや減少傾向、とはいえ1割程度である。暴力も不処罰の現状も、改善はしていない。人々は暴力と隣り合わせで暮らしているのが現状だ。子どもたちの日常も、変わらざるをえない。

というわけで、以下に記事を抄訳してみた。

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Miles de niños volverán a clases con una nueva enseñanza: simulacros contra balaceras

Por Dulce Olvera

https://www.sinembargo.mx/28-08-2022/4239394

 

28/08/2022 - 12:05 am

夏休みが終わり、2000万人以上の子どもたちが新学期を迎えるなか、麻薬密輸組織の暴力が目立っている。学校で銃撃戦が起きた場合にどう自衛するか、子どもたちに教える訓練が、ここ10年の間に国内各地で行われるようになった。

 

メキシコシティ、2022828(SinEmbargo)

 「ゾウさんがブランコに乗ってた、プン、プン、プン。クモの巣の上で、プン、プン、プン」

 サカテカス州フレスニージョの子どもたちが床にうつぶせになったまま歌う。フレスニージョは国内で最も治安が悪いとされる行政区で、地元の図書館のサマースクールのイベントのひとつとして、銃撃戦に備えた自衛訓練が行われた。

 その数日前、81日、幼稚園に入学予定だった5歳の女の子が、自家用車の中で父親と一緒に銃撃され亡くなった。5月には祖父に抱かれていた3歳の男の子が、地元の教会での銃撃戦に巻き込まれ、殺された。先週日曜には、武装グループが1417歳の4人の少年たちを銃撃した。

 「子どもたちが銃撃戦に巻き込まれた場合、どうしていいのかわからず、身動きできなくなってしまうことがある。訓練をすることで、犯罪活動が普通のことにように思えてしまうという意見もあるが、これが今の現実なのだ」と、フレスニージョ市長、サウル・モンレアル。同市では97.2%の市民が治安の悪さを実感しており、地元警察がこの訓練を行うようになった。

 市長によると、銃撃対応訓練は、小中学校だけでなく、鉱山開発が主体の商工業セクターにも広げる予定であるという。路上でも職場でも、だれもが危険にさらされているのだ。

 その数日前、アメリカ合衆国内務省はサカテカス州を治安悪化により、旅行注意勧告の対象に含めた。この旅行注意勧告の対象は、メキシコ国内はほかに5か所ある。

 州の保護者会連合の代表、ホセフィーナ・パディージャは電話取材に答え、銃撃戦対応訓練というのは、父母らにとって最初は驚きだったが、昼間でも銃声が聞かれるこの地域ではすでに日常の一部になっている。「現実逃避するわけにはいかない。どう対応するか、わかっていないといけない。もちろん、うまくコーディネートしたうえでだが」。

訓練から現実に

 学校で銃撃があった場合、子どもたちがどのように自衛したらよいか覚えるための訓練は、バハ・カリフォルニア、サカテカス、プエブラ、モレロスの各州に広がっている。20105月、ヌエボ・レオン州の学校の近くで銃撃戦が実際に起き、2018年にはソノラ州でも同様の事件が起きた。

 「このような訓練が良いか悪いかの議論はともかく、われわれは何に対応すべきか理解しなくてはならない。子どもたちの間にも暴力は常に影響を及ぼしており、その中で暮らしている。今年1月から6月の間に、413人の子どもたちが銃で殺されている。2021年より6%多くなっている」と、メキシコ子どもの権利のためのネットワーク代表、タニア・ラミレスは述べる。

 「もし雨粒が、プン、プン、飴玉だったら、プン、プン、そこに行きたかったけど」

 2010年、ヌエボ・レオン州モンテレイ市南部の小学校で、外で銃声が聞こえる間、幼稚園教諭マルタ・リベラは子どもたちを伏せさせ、そう歌った。当時、フェリペ・カルデロン大統領(20062012)が始めた麻薬戦争により、メキシコ北部を暴力の波が襲っていた。4歳の子どもたちを驚かせないために、4回も訓練のふりをしなければならなかった。翌年、この教諭は、米州開発銀行からもっとも優れた教師として表彰された。

 その12年後、夏休みが終わり、2000万人の子どもたちが新学期を迎える数日前、麻薬組織の暴力は、バヒオ地域、シウダー・フアレス、メヒカリ、ティフアナ、コリマの各地で再燃し、40人以上の逮捕者が出た。

 子どもの権利のためのネットワーク代表タニア・ラミレスによると、暴力的な環境で、おもちゃの武器や戦闘ゲームに囲まれている中、子どもたちが生きるためのすべを学ぶためには、訓練に加えて規範やフォローが必要だとする。

 「子どもたちは自分たちがどんな世界で育っているのか、知る必要がある。問題を解決し、困難な状況の中で生きるためのすべを学ぶ手助けをしないで、『ゾウさんがブランコで』の歌を歌うだけでは、教育として不十分だ。暴力について、子どもたちと話し合うべきである」という。

 20181月、ソノラ州シウダー・オブレゴンの小学校で、戸外で銃撃の音が聞こえ、モンテレイのケースと同様に、教師が訓練のふりをしなければならなかった。その銃撃戦では2人が亡くなっている。その同じ年の暮れ、プエブラ州科学技術高校の3年生らが、教員らの指導で銃撃戦での自衛訓練を行った。元サッカー選手クアウテモク・ブランコが知事を務める、メキシコ中心部のモレロス州のヒウテペクとクアウトラの学生たちも同様の訓練を行った。この地域では、近年犯罪が多発していることが報告されている。

 しかし、子どもの権利のためのネットワークの代表によると、「その訓練では、銃撃があったら地面に伏せるよう教えるだけで、そのあと九九の練習に戻る? そうでなく、子どもたちに恐怖を植え付けるだけにならないよう、寄り添うことが必要だ」という。

教育省にコメントを求めたが、大臣は現在引継ぎの最中で、広報担当部門によると、教育は地方分権主義で、地域のそれぞれの教育担当部局が取り組むことになっている、との返答だった。