メキシコ麻薬組織の武器はどこから来るのか?

 ハリスコ州で軍のヘリが麻薬組織の武装グループに撃墜されたというニュースは世界に衝撃を与えた(日本ではほとんど報道されなかったが)。国家を相手に対等に張り合えるだけの軍事力を持つ、影の勢力。一国の政治や経済にも影響を与えているのは当然といっていいかもしれない。

それにしても、これほどの武器はいったいどこから来るのか? いくつかのメディアで同様の記事が上がっていたので、BBCのものを抄訳してみた。武器の出所に関する研究が、ここ1、2年のうちに進展していたようだ。

*****************************************************

メキシコ麻薬密輸組織の武器はどこから来るのか?

¿De dónde salen las armas pesadas del narco en México?

フアン・パウジエル BBC Mundo, メキシコシティ 201556日 (抄訳)

 

ナルコの武力が再びメキシコを揺るがす

 51ハリスコ州で、「ハリスコ新世代」カルテルが、戦争用の武器を用いて軍ヘリコプターを撃墜した事件は大きな衝撃を与えた。ヘリに搭乗していた兵士6人が死亡した。戦闘は、ハリスコ州の州都で国内第2の都市グアダラハラと州内のいくつかの地点で起きた。メキシコおよびアメリカ当局はこのカルテルを国内でももっとも危険な組織のひとつとみなしている。

 これは同カルテルをターゲットとした「ハリスコ作戦」の一環で、この日の抗争では、死者は15人(うち兵士6人、警察官1人、容疑者8人)にのぼり、また犯罪組織が各地で道路封鎖を行い、数十か所のガソリンスタンドが襲撃された。

 ハリスコ州での武力抗争はこれが初めてではない。4月初めには大口径の火器とグレネードランチャーを所持したカルテルの待ち伏せに遭い、15人の警察官が死亡した。しかし軍のヘリコプターへの直接攻撃には、政府も「大きな衝撃を受けた」という。銃撃戦の後、メキシコ防衛省はカルテルからグラネードランチャー4丁とロケット砲10丁を押収したと発表した。

 このような事件は、国内の一部の地域を戦場にしてしまうだけの武力をカルテルがもっていることを見せつけるものである。治安アナリストのアレハンドロ・ホープは、事件の深刻さを認めつつ、その背景を考えるべきだという。これまでに軍ヘリコプターに対する犯罪組織の攻撃は、少なくとも55回にのぼっている。

「今回は回転翼に命中し、撃墜されたが、ヘリコプターに対する砲撃はこれまでにもあった。今回の事件は深刻であり、国家に対する正面切っての挑戦であるが、初めてのものではない」という。

武器はどこから来たのか

 麻薬カルテルが戦争用武器を所持しているという情報は新しいものではない。犯罪組織の攻撃力や装備が最近急に向上したというわけではないのだ。ロケット砲、AK-47、ウジ・マシンガン、ガリル・アサルトライフル、破片手りゅう弾、バレット・アサルトライフル、AR-15アサルトライフル。こういった武器が麻薬組織の手にある。公的資料によると、20062012年の間にRPG型のロケットランチャー81丁が犯罪組織から押収されている。

 政府は先週の作戦で、RPGロケットランチャー2丁、LAWロケットランチャー2丁、長銃、短銃、手りゅう弾、そして約4000のさまざまな口径の薬きょうを押収したと発表した。

 当然、これらの武器はどこからカルテルに流れてくるかという疑問がわいてくる。ホープによると、RPG(プロペラ付ロケットグレネードランチャー)については、「非常に殺傷能力が高い武器だが、内戦状態にあるところではどこでも使われている。最新鋭の武器というわけではない」。ソマリアの武装集団が使っているのだから、メキシコで使っていてもおかしくないという。ホープによると、確証はできないとしながらも、「中米から入った可能性が高い」という。

 破片手りゅう弾については、エルサルバドル軍から横流しされていたことがわかっている。LAWミサイルはホンジュラス軍から来ており、1980年代にアメリカ合衆国から供与されたものだった。

 しかしこれらの目立つ武器は、麻薬組織が所蔵する武器の中ではごく一部を占めるにすぎない。大部分はアサルトライフルやその他の銃器で、これらは合法的に購入されている。大規模なブラックマーケットに加えてグレーな市場もある。つまりどこかの国で合法的に購入され、メキシコに違法に密輸されるのである。

車を買うほうが難しい

「麻薬組織の武器の90%はアメリカから来ている。これは説得力のある数字だ」と、合衆国に本部を持つウッドロウ・ウィルソン国際研究センターが2010年に発表した調査を引いてホープは述べる。一方、アメリカ政府の公的機関の別の調査では、その割合は70%だという。

「国境の北のアメリカ側では8000もの銃器店があり、さらにガン・ショーと呼ばれる展示即売会もある。中古武器市場では身分証明書の提示も求めず、何の質問もされない。車を買うほうが武器を買うより難しいくらいだ」とホープはいう。

 ウイルソン研究センターの報告によると、アメリカで購入され、メキシコで押収された武器の大部分は、AK-47AR-15のセミオートマティック・ライフルである。2014年に『Mexican Law Review』誌に掲載され、メキシコ国立自治大学の司法研究センターが再掲載したエウヘニオ・ウェイヘン・バルガスとシルビア・ビジャレアル・ゴンサレスの調査によると、米墨国境を越えて毎年253000丁の火器が運ばれていると推定されている。 

 ペーニャ・ニエト政権が2013年に発表した報告によると、2011年には約4万丁の武器が押収されたという。ウェイヘンが昨年『Nexos』誌に発表した記事によると、この年は過去10年間でもっとも多くの押収量があったという。モンテレイ・テクノロジーセンターの政治学博士であるウェイヘンによると、「メキシコに入ってくる武器のせいぜい16%しか押収されない」という。アメリカから流入する武器の流れを阻止するうえでの課題のひとつは、「武器に関する規制を決定するのに、合衆国では州ごとに決定権がある点である」と述べている。

「州ごとに規制が異なることでグレー・マーケットが作られ、アメリカ側では武器の販売で収益を上げることが可能になっている。その一方でメキシコ側では組織犯罪を強化することになっている」。

 国立刑事学センターの研究員、マルティン・バロンは、ハリスコにおける重武器の使用の関連して、「重要なのは、犯罪組織が戦争用の武器と装備をそろえることができるだけの資金力を持っている点である」と指摘する。

 武器の出所については、武器密輸の最大の市場は確かにアメリカ合衆国だが、中米とアジアからもあると指摘する。AK-47アサルトライフルが2番目に多く来るといわれるのがアジアである。さらにこの種の市場へのアクセスとさまざまな口径の武器の使用のトレーニングにかんしては、元メキシコ軍兵士や南米の国々の治安当局の元要員がかかわっているという。

 麻薬密輸組織との戦争はすでに8年以上が経過し、死者は10万人以上に上っている。もし政府が麻薬組織の挑戦に対抗して高性能の武器を使用するようになれば、抗争はさらにエスカレートする可能性があるとバロンはいう。

「当局は別の方策をとるべきだ。当局の仕事は市民を守ることである。武器の使用よりも、組織に関する情報と分析を優先する諜報活動に力を入れるべきだ」とバロンは語る。

 

Lanzacohetes confiscado por las autoridades en México

Vehículo con blindaje artesanal confiscado a Los Zetas

Armas confiscadas a Los Zetas en 2011