コロンビアの治安悪化の背景にメキシコカルテル

メキシコの麻薬カルテルの力は国境を越え、中南米各地に拡大している。

南米からの麻薬密輸の中継地である中米だけでなく、生産地である南米コロンビアで、その存在を顕在化させるようになった。左翼ゲリラとの和平合意でコロンビアに平和が戻ってきたかと世界に安ど感を抱かせたのはとんだ思い違いだった。コカインの生産はかつてなく拡大しているという話も。それにしても、かつてはコロンビアカルテルの運び屋に過ぎなかったメキシコカルテルが、いまやコロンビアの犯罪グループを牛耳るまでになっているとは。

 

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コロンビアの社会活動家殺害の背景にメキシコカルテル

https://www.proceso.com.mx/571842/carteles-mexicanos-detras-de-los-asesinatos-de-lideres-sociales-en-colombia

 「Proceso2019年2月15日 ラファエル・クローダ, ボゴタ

 

 コロンビアの元ゲリラグループと政府の間の和平合意は、いまだに成果を上げていない。検察、人権擁護委員会、そして左翼政党「愛国連合Union Patriótica(UP)」の代表アイダ・アベジャの3者がそろって指摘するのが、和平交渉に加わることを拒否する反主流派グループが、犯罪行為、とくに麻薬密輸を継続しているからだという。彼らはロス・セタス、シナロア・カルテル、ハリスコ新世代カルテルのようなメキシコの犯罪組織にコカインを供給している。そのため、彼らは和平交渉に反対するだけでなく、コカから代替作物に切り替えるプログラムを支援する社会活動家をこれまでに少なくとも423人も殺害した。

 

La huella del narco mexicano en Colombia. Foto: AP / Luis Benevideshttps://www.proceso.com.mx/571842/carteles-mexicanos-detras-de-los-asesinatos-de-lideres-sociales-en-colombia

 

 コロンビアでは新しいタイプの暴力が起こるようになった。その主役はもはやゲリラと軍ではない。「シカリオ」と呼ばれる殺し屋である。彼らが狙いを定めるのは、大部分が共同体のリーダーである農民である。

 農民リーダーらの多くは、土地や人権、領域内の環境問題、そして2年余り前のコロンビア政府とゲリラ組織の「コロンビア革命軍(FARC)」の和平合意を実行に移すために活動している。

 政府系の人権組織である人権擁護委員会の推計によると、コロンビアでは2018年、少なくとも176人の社会活動リーダーが殺害された。これは2日に1人の割合で、2017年よりも40%も多くなっているさらに今年1月の最初の1週間だけで6人が殺害されている。

 近年ますます多くの農民リーダーが殺害されており、これは和平交渉の実現を阻害するものである。じつはその犯人は、メキシコの麻薬組織から資金を得ている協力な犯罪グループなのである

 上院議員で愛国連合(UP)党首、アイダ・アベジャによると、「社会運動の指導者らがここでは次々に殺害されている。メキシコのカルテルが、その殺人を行っているコロンビアの武装組織に資金を調達している」という。

 UPは約30年前の1985年、FARCとの和平交渉の中で結成された左翼運動体だったが、コロンビアの司法当局が「ジェノサイド」と呼ぶほどの大量殺人の犠牲となった。その犯人は、大土地所有者国家当局者と組んだ極右のパラミリタリーグループだった。

 アベジャにとって、ここ3年間にコロンビアで423人もの社会活動家が殺害されたことは、80~90年代にUPが体験した大虐殺を繰り返すものといえる。UPは当時、3,700人もの党員が殺害されたり行方不明になったりしたのだ。

 このときの大虐殺は、当時のベリサリオ・ベタンクール大統領(1982-1986)がFARCとの間で進めていた和平交渉を挫折させ、2012~2016年の間にフアン・マヌエル・サントス政権がゲリラとの間で行っていた和平交渉に黒い影を投げかけていた。最終的には、この和平合意は2016年11月24日に締結された。

 しかしこのとき以来、和平合意で元FARCゲリラの安全が保障されているにもかかわらず、元ゲリラ84人(1人は今年)とその家族17人が殺害されている。この101人の犠牲者は、和平合意以降に殺害されたすべての社会活動家の41%を占めている。

 「これは和平合意に対する直接的な攻撃だ。殺害されたリーダーらの大部分は、和平合意に伴うプロジェクトを実施し、経済第一主義や犯罪から村を守るために働いていた。犯罪者たちにとっては、戦争が続いているほうが都合がいいのだ」とアベジャ上院議員は語る。

 社会活動家を殺害している犯人らは、「20年前に和平交渉をとん挫させたのと同じ者たちだ」という。以前は「パラミリタリー」と呼ばれていたが、今は「犯罪グループ」と呼ばれている。そのなかには、国内最大の麻薬密輸組織である「クラン・デ・ゴルフォ」があり、これは「コロンビア・ガイタ主義自警団(AGC)」という名でも知られている。ほかに、「プンティジェロス」、「カパラポス」、「エンプレサ」、「太平洋自警団連合(Aupac)」がある。

 これらの犯罪グループは、すべて「コロンビア自警団連合(AUC)」の残党である。このパラミリタリー組織は約10年前に和平合意を受け入れたのだが、メンバーは高い確率で再び犯罪組織に戻ってきている。

 元パラミリタリーの犯罪グループらはこれまで、反体制派への攻撃、ゲリラに協力したと疑われた市民の大量殺人、UPの大虐殺、そして麻薬密輸を行ってきた。

 これらのグループはまた、みなメキシコの麻薬カルテルと何らかの関係を持っている。彼らはそこから武器と資金を得て、コカの葉とコカインを生産している。

 警察の情報機関の報告によると、クラン・デル・ゴルフォはシナロア・カルテルのコロンビアにおける主要な取引き相手で、ほかのパラミリタリー出身の犯罪グループもまた、「マヨ」ことイスマエル・サンバダの組織やロス・セタス、あるいはハリスコ新世代カルテルと取引きをしている。

 クラン・デル・ゴルフォもカパラポス、プンティジェロス、ラストロホス、エンプレサ、そしてAupacも、社会活動家殺害事件の捜査の中でその名が挙げられてきた。

 社会活動家を脅迫したり、犯行声明を出したりするチラシの中で、これらの犯罪グループの多くは伝統的に、すでに消滅したパラミリタリー組織である「黒い鷲」という名前を使う。

 武装抗争の研究者、アリエル・アビラによると、コロンビアの治安が最悪な地域で起きていることはすべてメキシコカルテルが送り込んでいるものと関係している、という。

 「コロンビアでは、メキシコの麻薬密輸組織の存在がますます大きくなってきている。彼らはコカインの供給を確保するために来る。資金と武器を持って来るのだ。このことが、多くの地域で暴力の激化に強く影響している。疑いなく、これが間接的に社会活動家らの殺害に結びついている」。

 

コカをめぐる抗争

 コロンビアにおけるメキシコ麻薬密輸組織の存在についてはProceso」誌2190号がかつて報じているが、それによると、彼らはコロンビア国内の17万1,000ヘクタールのコカの栽培地の3分の2をコントロールし、合計で1,000~3,500人の最新鋭の武器を備えた要員からなる民兵組織を擁している。

 メキシコカルテルから資金を得ている犯罪グループには、パラミリタリー出身のものだけでなく、左翼ゲリラ出身のものもある。

 和平プロセスに加わらなかったFARCの「分離派」は犯罪組織と化し、違法な鉱山開発、恐喝、そしてとくにコカの生産とコカインの製造にかかわるようになった。これらのグループはすべてメキシコのカルテルに生産物を卸している。

 そのなかのひとつ、「オリベル・シニステラ前線」は最初、シナロア・カルテルと強力な同盟関係にあったが、のちにハリスコ新世代カルテルにコカインを送るようになった。リーダーのグアチョことウォルター・パトリシオ・アリサラは、昨年12月21日、南西地方のナリニョ県で、コロンビア軍によって殺害された。

 この地域は世界でも最大のコカインの生産地であるのだが、シナロア・カルテルと同盟関係にある「太平洋ゲリラ同盟GUP」が活動し、その一方で北東部のカタトゥンボでは、「ペルソス」がハリスコと取引きをしている。

 これらゲリラ出身の犯罪組織もまた、社会活動家殺害の捜査のなかで言及されている。

 人権擁護委員オンブズマンであるカルロス・アルフォンソ・ネグレによると、共同体リーダー殺害のおもな理由は、彼らが和平合意の一部であるコカから代替作物に切り替えるプログラムを支援しているからだという。

 ネグレによるとほかにもシアン化合物や水銀の使用によって川が汚染されてしまうため、金の採掘に反対していたために殺害されたリーダーもいる。また、武装抗争がもっとも激しくパラミリタリーが強大な力を持っていた時期に奪われた土地を回復するため、地元の大土地所有主や政治家らを相手にたたかっていたために殺害された人もいるという。

 アベジャ上院議員によると、社会活動家を殺害しているグループは、多くのケースで現役の兵士らや警察官、役人らと共謀関係にあるという。殺人犯らは、犠牲者がどこに住んでいるか、何時に家を出るか、毎日何をするか、全部知っている。「そういう情報を伝えることができるのは国家の当局者だけだ」と指摘する。

 これらの犯罪グループの目的のひとつが、違法栽培物から切り替えプログラムをやめさせることであるのはとくに危険だとアベジャは述べる。「一連の麻薬密輸のプロセスのなかで、メキシコのカルテルとそれにかかわるあらゆる犯罪グループがいちばん困るのは、農民らがコカの栽培をやめてしまうことだ。そのために共同体リーダーらが攻撃の対象になるのだ」

 「メキシコの麻薬密輸組織がこういった殺人犯らに資金と武器を提供しているのであれば、彼らもまた今起きている状況に責任がある」とアベジャは指摘する。

 

早期警戒

 コロンビア国内で、暴力と社会活動家の殺害が著しく増加している地域のひとつが、北西部のアンティオキア県バホ・カウカ地方である。そこではコカの栽培がさらに拡大しており、2015~2017年の間に469%も増え、1万3,681ヘクタールにも拡大している。

 この拡大の背景にあるのがシナロア・カルテルとロス・セタスで、彼らはこの重要地点に代理人を置いている。この地はコルドバ県に隣接し、ウラバ湾とカリブ海につながっている。

 2018年初め、人権擁護委員会は内務省に、コルドバ県ティエラルタ行政区の住民が「生命の危機にさらされた状況」であると訴える「早期警戒」報告を送った。この地域にシナロア・カルテルが入り込んでいたことが暴力的状況の背景にある。メキシコのこの組織は、この地域の犯罪グループ、なかでも強力な「クラン・デル・ゴルフォ」に資金を調達していという。

 人権擁護委員会は、政府にティエラルタの住民を保護するよう依頼した。シナロア・カルテルとの関係によって勢力を拡大した犯罪グループらは、住民に対して選択的殺人をはじめさまざまな危険にさらしていたからだ。強制立ち退き、監禁、通行規制、強制失踪、性的暴力。そのうえ、未成年者をリクルートもしていた。

 昨年、この地域では少なくとも12人の社会活動家が殺害された。その大部分は違法作物からの切り替えプロジェクトを推進していた。アンティオキア県バホ・カウカの6つの行政区のうち3つは、国内のこの種の殺人事件がもっとも多い10の行政区の中に入っている。

 この点について、カルロス・アルフォンソ・ネレ人権委員は、共同体指導者の殺害事件が集中している地域の多くで、住民たちはみな、メキシコのカルテルの存在のことを話しているという。噂では、メキシコの組織から派遣されてきた人物らが農民や農村共同体に資金を貸付け、コカの木を植えさせ、後で収穫物を受け取り、投資した分を差し引いて払っているとという。

 ネグレ氏は、この3年間に殺害された共同体リーダーの数は恐ろしいほどであり、どんな国も社会活動や人権擁護活動を理由に殺害されるのを許してはならない。コロンビア国家はこのような犯罪が起こらないように取り組まなければならない、と述べる。

 国連のマイケル・フォースト報道官は、12月初めにコロンビアを訪れ、恐るべき状況だと述べた。さらに社会活動家の殺害は組織的に行われていると指摘したが、この点についてはコロンビア検察庁は否定した。

 NGOの人権団体「ソモス」の調査によると、社会活動家や農民リーダーの殺人の91.4%は解決されないままだという。

 2月4日、内務大臣ナンシー・パトリシア・グティエレスは、政府は「その種の殺人事件の防止と真相解明のために必要なことはすべて行っている」と述べ、元FARCメンバー12人殺害の疑いで26人に逮捕状が出ていると発表した

 ヨーロッパ連合の国際人権評価委員会は、FARCとの和平合意で計画されていたパラミリタリー組織の解体を推進するためのコロンビア政府の政治的意欲が欠如しているとみなしている。それは元ゲリラらの安全を確保するうえでもっとも重要な柱のひとつであるのだ。

 その報告書、「和平プロセスを脅かし、違法鉱山開発や麻薬密輸に関係しているこれらの犯罪組織を壊滅するという確固とした決意がない限り、コロンビアに平和は訪れることはないだろう」としている。