2013~14 火を噴くミチョアカン

 

いま、ミチョアカンで何が起こっているのか?

 

 2013年来、米墨国境地域に代わって麻薬戦争の火の手が上がっているのが、メキシコ中西部、ミチョアカン州である。その地で何が起こっているのか、2014213日付のCNNメキシコの記事 (「ミチョアカンにおける紛争を理解するために知っておくべき10のこと」”10 cosas que debes saber para entender el conflicto en Michoacán”, Darío Martínez y Juan Pablo Mayorga)を参考にまとめてみた。

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 メキシコ中西部に位置し、人口430万人余りのミチョアカン州は、1年前(2013年初頭)から暴力事件が多発し、犯罪グループと当局が交戦し、また自衛団と呼ばれる民間の武装グループが次々に結成されてきた。2014113日、このような事態に対してメキシコ政府は州の治安回復のために武力介入を行うことを宣言した。 

 

まず、「自衛団」とは何なのか? 

 

これは武装した民間人グループで、多くは農業や牧畜に従事する人々である。地元の警察は犯罪組織に買収され、信用できないため、自ら治安維持の乗り出したという。彼らによるとその活動は、犯罪者による恐喝、誘拐、殺人、暴力その他に対する住民の正当防衛だという。

 

 20132月にハリスコとミチョアカンの州境に位置するラ・ルアナ村とテパルカテペック村で初めて結成され、その1年後には、20の郡の約30の町村で自衛団が発足するに至っている。

 

 本来、このような民間人による武装集団は違法な存在である。だが今年127日、連邦政府はこれをメキシコ軍の軍規による民兵組織という扱いにし、自衛団との間でその成員と武器を登録することで合意した。自衛団はそれぞれコーディネーターを置き、コーディネーターは定期的にラ・ルアナ村で開かれる委員会に出席し、自衛団の他の地区への展開や政府との合意について議論することになっている。

 

 自衛団のスポークスマンのひとり、エスタニスラオ・ベルトランによると、彼らの活動資金は農業や牧畜など、犯罪者の手から取り返した自分たちの事業から得た収入であり、武器はテンプル騎士団の武器庫から押収したものと自分たちが前から持っていたものだという。

 

テンプル騎士団とは?

 

 犯罪組織のおもなリーダーのひとり、「トゥタ」ことセルバンド・ゴメス・マルティネスは、これまで何度も、自分たちはミチョアカンにとっての「必要悪」であると主張している。 それに対して自衛団のリーダーたちは、テンプル騎士団は州の中部で活動していた「ロス・セタス」カルテルによる恐喝や犯罪からミチョアカンを解放したのは確かだが、今ではテンプル騎士団が同じ犯罪行為を行っていると非難している。

 

 テンプル騎士団という名前は、12世紀初め、エルサレムとヨーロッパでキリスト教の信仰を守るために結成された宗教騎士団からとっている。トゥタは自分たちの成員は、中世の十字軍と同様の使命を帯びているのだという。

 

 テンプル騎士団の主要なリーダーは、トゥタ、エンリケ・プランカルタ、ディオニシオ・ロヤ・プランカルタであるが、ロヤ・プランカルタは128日の作戦で逮捕された。もうひとりの創設者に「チャヨ」ことナサリオ・モレノがいるが、連邦政府は2010年に殺害したと発表した。だがその遺体は発見されず、テンプル騎士団も自衛団もまだ生きていると噂している。 

 

ほかにどんな犯罪グループが?

 

 テンプル騎士団と、2003年にゴルフォ・カルテルから分裂してのちミチョアカンに進出してきたロス・セタス以外に、メキシコ最大の麻薬マフィア、「チャポ」ことホアキン・グスマン率いるシナロア・カルテルも勢力争いに加わっている。

 

 シナロア・カルテルはミチョアカンでは、「ハリスコ新世代」カルテルという小さい組織を通じて活動を行っていた。この組織のリーダー、エリク・バレンシア・サラサルは20123月に逮捕されたが、グスマン・ロレアの仲間である「ナチョ」ことイグナシオ・コロネルから指示を受けていたという。

 

 テンプル騎士団側は、自衛団グループはライバルカルテルのハリスコ新世代のために活動していると非難している。しかし自衛団側はそのような非難は自分たちの評判を落とすためのものだと反論している。 

 

政府の対応は?

 

 自衛団が2週間にわたって「熱い土地」に侵攻し、地域で2番目に重要な街であるヌエバ・イタリアを制圧し、さらに最大の街で騎士団の本拠地であるアパツィンガンで自治体庁舎などを攻撃した後、113日、連邦政府と州政府は州の治安回復のための合同作戦を行うと発表した。官房長官はその2日後、ミチョアカンの治安と総合的発展のための連邦委員会を創設すると述べた。

 

同時にミチョアカンには連邦警察、陸軍と海軍の部隊、そして連邦検察庁の捜査官らが派遣され、犯罪組織と協力関係にあるとされる地元警察は武装解除され、調査のために州外に移送された。

 

 さらに2月にはペニャ・ニエト大統領は、クレジットやインフラ建設、社会施策によってミチョアカン経済を活性化させるために455億ペソの投資を行うと発表した。 

 

「熱い土地」とは?

 

 ミチョアカン中西部の盆地で、乾燥した気候のこの地方には17の郡が属している。この地は約30年前から多くの犯罪グループの抗争の舞台となってきた。肥沃な土地がマリワナの栽培に適しており、貨物港のラサロ・カルデナス港と州中心部や国の中心部を結ぶ戦略的な位置にあるからである。

 

 連邦政府の統計によると、ミチョアカンは、アボカド、レモン、グアバ、イチゴ、キイチゴなど青果においては国内の主要生産地で、盆地は牧畜に適しているという。

 

 官房長官もミチョアカンの警察幹部も、また州内の商業関係者も、組織犯罪が蔓延したのは10年以上にわたる当局の「怠慢」のためだと口をそろえる。

 

 2006124日、フェリペ・カルデロン大統領は就任後わずか3日で、自分の出身州であるミチョアカンで組織犯罪撲滅作戦を開始した。街頭での治安維持には連邦警察と軍が当たった。だがその後、タマウリパスやゲレロなどほかの地域で緊急を要する状況になり、連邦警察の多くは引き上げざるをえなくなった。そのあとに犯罪組織はさらに暴力的になって戻ってきたのだという。

ヌエバ・イタリア市庁舎の外で。犯罪組織に協力しているとして自衛団が地元警察を制圧。http://www.jornada.unam.mx/ultimas/2014/01/13/las-batallas-de-las-autodefensas-en-michoacan
ヌエバ・イタリア市庁舎の外で。犯罪組織に協力しているとして自衛団が地元警察を制圧。http://www.jornada.unam.mx/ultimas/2014/01/13/las-batallas-de-las-autodefensas-en-michoacan
ヌエバ・イタリアでの銃撃戦で自衛団側に出たけが人。http://www.jornada.unam.mx/ultimas/2014/01/13/las-batallas-de-las-autodefensas-en-michoacan
ヌエバ・イタリアでの銃撃戦で自衛団側に出たけが人。http://www.jornada.unam.mx/ultimas/2014/01/13/las-batallas-de-las-autodefensas-en-michoacan
1月10日、ミチョアカン州中部パラクアロ市入り口にて。http://www.jornada.unam.mx/ultimas/2014/01/13/las-batallas-de-las-autodefensas-en-michoacan
1月10日、ミチョアカン州中部パラクアロ市入り口にて。http://www.jornada.unam.mx/ultimas/2014/01/13/las-batallas-de-las-autodefensas-en-michoacan