麻薬密輸のルート

<生産>

マリワナ・ヘロイン

 大部分がメキシコ国内で生産される。シナロア州、チワワ州などおもに北部の貧しい山岳地帯でマリワナやケシが栽培される。

 マリワナは、多くは乾燥させてパック詰めするだけで加工度は低い。

 一方、ヘロインの製造には非常に手間ひまがかかる。原料となるアヘンの生産には、何千もの小さなケシの花のガクの部分に小さな傷をつけて樹液を採取する作業が必要で、これには小さい子どもたちが動員されることもある。農家が採取したケシの樹液は業者が集め、ペースト状にしたものからモルヒネが製造され、さらに精製過程を経て90%以上の純度のヘロインが作られる。その後、北米の消費者に渡るまでに密輸業者によってかさを増やすための混ぜ物がされる。

 

覚せい剤

 原料となる薬剤から簡単に作れるので、メキシコ国内のあちこちで生産され、大量生産工場もある。

 

コカイン

 おもにコロンビアから9割以上が来る。残りはペルー・ボリビアなど。船や飛行機などでメキシコ国内に運ばれる。中米のジャングルにつくられた秘密飛行場を経由してくることが増えている。

 

<米墨国境を超える>

陸路

 NAFTA(北米自由貿易協定)以降、国境を行き来する人や車が増加し、関門では2時間待ちもざらだが、チェックしきれないのが現状。車やトラックを密輸用に改造するのを専門にするグループもある。エアバッグの収納場所を使ったり、床の部分を二重にするなど、巧妙にできている。さらに車数台に分けて載せ、そのうち1台はわざとつかまって、それに手間を取られている間にほかの車がゲートを通過するなどの手段もしばしば用いられる。ほかに徒歩で国境を超える不法移民にバックパックで運ばせることもある。

地下トンネル

 あちこちで見つかっている。照明や空調も備えた近代的なトンネルが見つかることも珍しくない。アメリカではレーダーシステムを開発したが、実際には探知は難しい。 

海路

 週末、プレジャーボートであふれる中に紛れてサン・ディエゴなどの港に入る。のろくても大量に輸送できる潜水艦も。

空路

 おもにコロンビアからメキシコ国内に運ぶために飛行機が用いられる。90年代のメキシコの大物マフィア、アマード・カリージョは「Señor del Cielo 空の帝王」と呼ばれ、22台のボーイング727型機を所有していた。最近でもメキシコ国際空港でシナロア・カルテルが積み荷を降ろしていたことがわかっている。アメリカの空港はチェックが厳しいため、米国内への空輸は少ない。

 

<アメリカ国内での流通>

 ()エルパソ(一部小売) → シカゴ(大部分が小売) → 一部はニューヨーク、マイアミなどへ。

 トラックでの輸送は、多くは犯罪歴のない、金に困った運転手が引き受けるが、ギャングの仲間が運ぶことも。メキシコ・ラテン系同士のネットワークの中で仕事が融通されることが多い。

 小売りは、大部分が地元の、おもにメキシコ系ストリートギャングが、それぞれの決まった場所で行う。メキシコのカルテルはたいてい、そこまではかかわらない(La Familia Michoacanaは直接支配しているところがある)

 

 麻薬を必要としている、麻薬なしではいてもたってもおれないアメリカ人がいるからこそ、成り立つ流通ネットワーク。途中のどこで取り締まっても、モグラたたきのように、別のルートを経由して運ばれる。