アヨツィナパ教員養成大学学生43人拉致失踪事件  ――覆った「真実」①

2014年926日ゲレロ州イグアラ市で、アヨツィナパ教員養成大学の学生43人が拉致され、行方不明になる事件が起きた。

この事件については日本語でもいろいろなメディアに出ているが、事件発生当時から謎が多く、さらに2015年1月に当時の検事長官が発表した公式見解が再調査の結果、同年年9月にはそれがとんでもないでっち上げであったと判明するなど、いまだ解決に至っていない。

 

事件は、2014年9月26日夜、メキシコ南西部ゲレロ州の北部のある商業都市、イグアラ市で起きた。ゲレロ州の州都チルパンシンゴの郊外にあるアヨツィナパ教員養成大学の学生らが、メキシコシティで行われる集会に参加するため、イグアラ市のバス会社からバスを借り、大学の寮に戻るところだった。

ゲレロ州の教員養成大学は、伝統的に貧しい農村部出身の若者を積極的に入学させる方針をとり、多くの左翼活動家を輩出してきていたところである。大学生たちはバス会社から運転手付きでバスを無賃で借りるという伝統があり、このときもバス会社の了解のうえで、複数のバスを借りていくところだった。

 

その夜、バスの列が街の中心街を出ようとしていた時、突然警官らから銃撃を受け、その場で学生3人が死亡。偶然近くを通りかかったタクシーや別のバスで移動中だったサッカー選手らも銃弾を受け、ほかに3人が死亡した。さらに43人の学生が拉致され行方不明になった。

 

この事件について、検察庁は当初、学生らは以前からイグアラ市市長と対立しており、学生らが夫妻主催するイベントを妨害しに来たため、市長が警官らに命令して襲撃させた、と発表した。拉致された学生43人は麻薬密輸組織「ゲレロス・ウニードス」に引き渡され、マフィアらは学生たちを殺害し、隣町のコクラ市の露天のごみ焼却場でガソリンや古タイヤで遺体を焼き、遺灰を川に捨てたとした。実行犯」とされた男の「証言」によって遺灰は回収されたが、損傷の度合いがひどく、DNA鑑定すら難しいため、ミトコンドリアレベルで鑑定できるという特殊な技術を持つオーストリアの大学まで送って依頼。2014年117日、遺骨の一部が失踪学生のひとりのものだと判明したと発表された。しかしそれ以外の身元は確認されていない。首謀者とされた市長夫妻は、逃走先のメキシコ州の隠れ家で逮捕されたが、容疑を否認。

国内各地で大規模なデモや抗議行動が起こり、ペーニャ・ニエト大統領は国外メディアからも批判を受けるに至っている。

 

March for missing Mexican students in Mexico City

↑「生きて連れて行ったのだから、生きたまま戻せ」

 

↓ゆいいつ身元が判明した学生、アレハンデル・モラ・ベナンシオ。

Demonstrators in Mexico City, 6 Dec 14

File photo dated 8 May 2014 of Iguala mayor Jose Luis Abarca and his wife Maria de los Angeles Pineda in Chilpancingo, Mexico.↑首謀者とされるイグアラ市市長ホセ・ルイス・バルカとその妻マリア・デ・ロサンヘレス・ピネダ。妻の亡くなった兄弟らは麻薬マフィアで、地元マフィア、ゲレロス・ウニードスと密接な関係にある。夫の任期が終わるのを受け、妻が市長の座を引き継ごうともくろんでいた。