メキシコ各地で組織犯罪間の抗争が継続するなか、殺害される人の数とともに増えているのが行方不明者である。家族がある日突然、出かけたきり帰らなくなった、帰宅途中に、ときには自宅に押し入った武装集団に拉致され、行方知らずになった。警察に届け出てもどうにもならない。そんな事件が毎日のように起きている。
遺体が見つかったわけではないことから、家族は絶望に陥りながらも、ある日ひょっこり帰ってくるのではないかという希望も捨てきれない…。
そんな行方不明者の家族が、自ら行動を起こし、犠牲者が埋められているとみられる秘密墓地を探し出し、遺体発掘を自らの手で始めたのだ。
以下は、インターネット新聞『SinEmbargo』の記事の要約。
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サンドラ・ロドリゲス・ニエト (メキシコシティ SinEmbargo, 2016年8月30日)
http://www.sinembargo.mx/30-08-2016/3086066
「政府発表の数字は、今や『巨大な秘密墓地』と化したメキシコの現状のごく一部でしかない」。行方不明になった家族を、自らの手で探すグループのメンバーはこう語る。
連邦政府の発表によれば、メキシコで2006年以降、行方不明になっている人は2万7000人余り。しかし実際にはもっと多いという。連邦政府や州政府の無為無策に対して、メンバーらは「当局は真実を隠そうとしているが、われわれは真実に迫ろうとしている」と批判する。司法警察によれば、フェリペ・カルデロン前政権下の6年間に68の秘密墓地から378体の遺体が発見されている。それがペーニャ・ニエト現政権になって3年間のうちに、156の秘密墓地から303の遺体が発見されているのだ
ベラクルス州ベラクルス市で、息子が行方不明となっているルシア・ディアス・ヘナオは、今年5月10日午後の出来事を次のように語った。
ちょうど彼女と仲間の女性たちが、市の中心地区でデモを始めようとしていたとき、数人の男たちが乗った1台の軽トラックが停車し、彼女らに地図を印刷した紙を手渡して去って行った。ディアスによると、女性たちの多くはデモが行く予定の道筋だと思ったという。しかし彼女には、それが「サンタフェの丘」と呼ばれる地区の地図だとわかった。そこに遺体が埋まっているかもしれないという話を、少なくとも1年前から聞いていたのだ。
「私は彼女らから地図を書いた紙を回収した。私にはすぐにそれ何なのかわかった。サンタフェの丘のことを知っていたから。母親たちが元気をなくさないように、紙を取り上げたのよ」
何か月も前から、約10ヘクタールのその土地のことは近隣住民らから聞いており、その地図はかねてからの疑いを裏付けるものに過ぎなかった。そこでは2015年4月に組織犯罪特別捜査機関(SEIDO)が5体の遺体を発見している。
ベラクルス市の港湾地帯の行方不明被害者の約90家族からなるグループ「ソレシート(Solecito)」は結成から2年たち、すでに資金集めのための活動を行い、法人類学のトレーニングを受けていた。そこで、サンタフェの丘で初めての捜索を行うことを決めた。
「私たちは2年かけて資金を貯めた。たいへんだったけど。捜索に必要な道具もすべて買った。シャベル、棒。これを地面に突き刺し、臭いをかぐと、地中に何か生物学的なものがあるかどうかがわかる。それは非常に特徴的な臭いで、ひどい悪臭なのよ」
その結果、8月8~22日の間に、「陽性の」すなわち遺体が埋まった58の穴が見つかった。
「たくさんの人が私たちにこう言った。それがそこにあると、わからないわけはないと。私たちが捜索を始めると、行方不明の家族がいる地元の人たちもやってきた。公然の秘密だったのだ」とディアスは語る。
民間団体「全国行方不明者捜索隊」の支援を受け、ベラクルスの母親たちのグループが3週間のうちに発見した秘密墓地の数は、ベラクルス州でもっとも多かっただけではない。2016年1月までの現政権になって3年の間に連邦政府が公表した全国の秘密墓地の数156の3分の1以上(37%)を占めるものとなった。
「驚くようなことじゃない。政府は探そうとしないだけ。公的発表の数字は非現実的。実際にはもっと多いはず」とディアスは語る。
司法警察発表の情報によると、2007年2月から2016年1月までの10年間のうちに224の秘密墓地から681体が発見された。2012年12月までの6年間の前政権下に、68の秘密墓地から378体が見つかっている。現政権になって4年で、あらたに156の秘密墓地から303の遺体が発見された。
同じ司法警察の情報から、その傾向の変化もわかる。フェリペ・カルデロン前政権下では、大部分は国内北部の州で発見されている。例えばチワワ州では、2008年1月から2月にかけて「合同チワワ作戦」と呼ばれる軍事作戦が開始した当時、53の遺体が2つの秘密墓地に埋められた。またタマウリパス州では、2011年にサンフェルナンド行政区で、司法警察は14の秘密墓地から120人の遺体を発見した。さらにドゥランゴ州で、7つの秘密墓地に53人が埋められていた。
しかし現政権になって、2014年9月の43人の教員養成大学学生の行方不明事件が起こったことで、ゲレロ州で集中的に捜査が行われた。そして同年10月以来、88の秘密墓地から少なくとも169の遺体を発見したと連邦政府は発表した。そのうち80の墓穴と155の遺体はイグアラ行政区に集中している。
ゲレロ州のグループ「イグアラのその他の行方不明者」のマリオ・ベルガラによると、政府発表の数字は、今や「巨大な秘密墓地」と化したメキシコのごく一部でしかない、という。ベルガラさん自身、兄弟が行方不明になっており、全国行方不明者捜索隊のメンバーでもある。
「われわれは5月にチラパ(ゲレロ州中部の行政区)での捜索に参加し、9日から12日のたった3日で2つの秘密墓地から4つの遺体を発見した」
「イグアラでは、1週間前に別の秘密墓地を発見した。そこはSEIDOが捜査を打ち切ってしまっていた場所で、われわれが行って26人の遺体を発見した。2014年以来、148体を発見した。しかしそれはわれわれのグループが見つけた分だけだ」
司法警察の統計には、州検察局が報告した分は含まれていない。例えば、モレロスでは今年5月以来、犠牲者家族からの強い要請を受け、2つの共同墓地から117の遺体が発掘されている。これは、遺体安置所に鑑定作業のために保管されていた遺体を廃棄するために、州政府が埋めたものである。また今年7月にサカテカス州の警察が報告した、同州パヌコ行政区の秘密墓地から6人の遺体が発見された件もそこには含まれていない。
さらに、全国行方不明者捜索隊の最初の活動によって発見された58の秘密墓地では、犠牲者の数がまだ特定されておらず、これもまた司法警察の数字には含まれていない。ディアス・ヘナオによれば、ゲレロのケースと同様、その場所はSEIDOが捜査を1年前に打ち切っていたところである。
「われわれが見つけたものは、当局には決して見つけられなかったはず。彼らは上っ面しか探さない。しかし私たちは真剣に捜索している。彼らは真実を隠そうとしているけど、私たちは真実に迫ろうとしている」とディアス・ヘナオは語る。彼女の息子は2013年6月に行方不明になっている。
「当局はこういうことになるとは予想もしていなかったでしょう。母親たちのグループが、何が起きてもたじろがず、休みもせずにたたかうなんて。やつらそこ犯罪者よ」
ディアス・ヘナオと国内各地の行方不明被害者家族らは、メキシコ法人類学グループ(EMAF)という団体から、遺体発掘と捜索のための講習を受けた。
「理論を教えてもらった。しかしもっと役に立ったのが、『イグアラのその他の行方不明者たち』のメンバーらが実地に捜索を支援してくれたことだった。彼らからは計り知れないほど助けてもらった」とディアスは語る。
ベラクルス州検察庁を説得し、サンタフェの丘地区で自ら発掘作業を行う許可を得て、グループは独自の捜査を今月から開始した。
「私たちは8月3日に捜査を開始した。最初の3日間は、検察庁の捜査官らが私たちをあっちこっち連れ回したが、何も見つけられなかった。捜査官らが自分でやろうとし、私たちには実際、何もさせてくれなかった。『それじゃだめだ』と言って、8日からは自前で捜査を始めた」
「その日から私たちは自由に捜査を開始した。SEIDOが捜査した場所で、その日のうちに50個の骨片を発見した。私たちは手で石をどかしながら調べた。そこからすぐ隣の場所に移動し、同じ日に2体を発見した。結局、初日だけで3体を発見した」とディアス。
「最初の週に28の秘密墓地を発見した。翌週の月曜にはさらに10を見つけ、合計38か所になった。そうやって発掘を続けた」
8月22日までに「陽性の」墓穴の数は58にも上った。そのうち科学警察が最初に検分を行った6か所からは、19体が発見された。
「人体が埋まっているとわかると『陽性』と呼んでいる。これまで58の墓穴のうち6つしかまだ検分が行われていない。科学警察の仕事は細かいので、とても遅いのだ」
都市部の土地に、20体近い遺体が埋められた秘密墓地がつくられている。それも住宅造成地の向かいで、ベラクルス港の港湾行政機関からも近い地区である。当局の了解なしに行われたとは考えられない、とディアスはいう。
「そこは広大な住宅造成地に隣り合った場所で、ベラクルス市に属する住宅地だ。農村地域じゃない。港湾用地のすぐ後背にある。警察のパトロールがあるはずで、一帯は公安が監視していて当然の場所なのに」
しかし、捜査作業のなかでは一切、犯罪に関する捜査は行われないという。もっとも困難だったことは、変わり果てた人の姿を目にすることだった。土をどかすと、骨片、大腿骨、頭蓋骨、髪の毛などが見えてくる。そこには命への敬意のかけらも見受けられないのだ。
「私たちはぞっとするような光景を目にしている。第一世界の仲間入りをしようという近代都市ベラクルスで、こんな秘密墓地が存在するなど、ありえないはずだ。…これは最初のものではないけれど、大規模なものであるのは確か。そのうえ、それを見つけたのはわれわれ民間グループなのだ。当局は何も見つけることができなかったのだ」