麻薬合法化の動き

 麻薬取締りに関しては、北米での需要がなくならないかぎり、いくら生産や流通の部分、つまり地域的には主に南米・中米・メキシコ地域で「撲滅戦争」をやってもきりがない、というのは明白である。

 この点に関しては結局、麻薬を「合法化」するしか方法がないのではないか、というのは昔から言われていたことだ。かつてアメリカ合衆国では、禁酒法が実際には効力がなく、むしろマフィアの勢力拡大を招くという経験をしたが、今日も同じ状況といえるのではないか。

 

 麻薬合法化の推進を公言することは、麻薬依存者や麻薬カルテル関係者の自己弁護のようにも聞こえるのか、公職にある人々のなかではタブーのように扱われていた。

 だがここにきて、ラテンアメリカ各国では、政界トップの人々の間でも、「麻薬は合法化するしかない」と公言する人が増えてきた。

 メキシコのフォックス前大統領は、2011年9月、メキシコ北部の都市モンテレイで、セタスによるカジノ襲撃事件で52人の市民が犠牲になったのを受け、カルテルと停戦協定を結び、恩赦法を定めるべきだとまで発言している。フォックス前大統領はカルデロン現大統領と同じ国民行動党(PAN)であるが、最近では麻薬合法化論者となっている。

 

 麻薬合法化に関して、かつて麻薬戦争の最大の舞台となっていたコロンビアの元大統領はBBCmundoのインタビューに答えて次のように語っている(訳は筆者)。

 

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http://www.bbc.co.uk/mundo/noticias/2012/02/120216_gaviria_drogas_entrevista_an.shtml

Gaviria frente a la política antidrogas: "Uno está obligado a cambiar"  

ガビリア元大統領、対麻薬政策にもの申す――「誰しも考え方を変えざるをえない」 

2012216日 BBCMundo、メキシコシティ、 アルベルト・ナハル

コロンビアの元大統領、セサル・ガビリア氏は自分は麻薬密輸の撲滅のために「誰よりも」力を尽くしてきたという。しかし今、メキシコのビセンテ・フォックス元大統領、ブラジルのエンリケ・カルドーゾ元大統領とともに、麻薬の合法化に関する議論の主要な推進者のひとりとなっている。 

  

――あなたやほかの元大統領らは麻薬の合法化についての議論を推進しているが、いまや現職の大統領のなかにも公然と同じ意見を述べる人たちが出てきた。国際的な政治環境の中に、合法化を可能するような変化があると思うか?

 

 アメリカに対して政策を転換するようにと力を尽くしてきたが、実際、禁止策を賢明な政策だと弁護することは非常に難しくなっている。 コロンビアや中米、メキシコで起こっている暴力の多くは、麻薬禁止政策によって引き起こされていると考えざるをえない。麻薬取引の規模は非常に拡大しており、アメリカは膨大な資金を無駄に費やし、その一方で麻薬の消費は減少していないからだ。ラテンアメリカでこれほどまでに否定的な結果をもたらしている問題を、アメリカが議論すらしないというのを容認できるのかと、現職や元大統領らが自問し始めたことはもはや明らかだ。

 

――アメリカ合衆国は合法化に対しては公然と反対している。このような状況の中で議論に進展はあるのだろうか?

 根本的な問題は、アメリカがどれほど協力してくれるかではなく、いかにその政策をより効果的なものに、そして自分たちの必要に応じるだけでなくわれわれの要求にもこたえたものに変えるかである。禁止主義はすでに失敗しており、いまやそれを見直し、有効かどうか検証するときである。

 

――アメリカ政府は取り合ってくれるのか? 

 

 アメリカの態度は少し奇妙だ。北米の人々の大部分は麻薬戦争は失敗したと考えている、オバマ政権もまた麻薬戦争に関してはもはや話題にもしない。賢明な政策ではないとわかっているからだ。ほかにいい方法がないことは分かっているが、議論は避けたがっている。 

 

――麻薬は家族のきずなを壊すと考える人々に対しては、どう説得するのか?

 ちょっと待ってくれ、アメリカでは18の州でマリワナを実質的に合法化しているのだ。なので、彼らは政府が合法化するのを待つ必要はないのだが、その間、我々の国々では麻薬撲滅のために何千人もの死者が出ている。これは正当とはいえない。

 

――麻薬の合法化は重大なリスクだと考える人々に対してはどのように説得するのか?

 合法化が解決策というわけではない。アメリカに対して提言しなくてはならないのは、麻薬の合法化というよりも、麻薬の消費を犯罪とみなすのではなく、健康上の問題として考えるように、定義を変えることができないか考慮してほしいということなのだ。

 

――なぜ自国の政権にあった時にこのような提言をしなかったのか?

私は麻薬カルテルに対しては誰よりも強硬に立ち向かった。メデジンカルテルは世界でも歴史上もっとも強力な麻薬組織だった。コロンビアでは、大統領やその候補者らの命は実際、危機にさらされていた。自分が立候補した選挙戦では、候補者の半分は殺された。私自身も飛行機爆破事件で殺されるところだった。つまり、あの当時はお遊びではなく、真に民主主義が滅びるか否かをかけた戦いだったのだ。やれる限りのことはやった。実際には国内での麻薬消費は少なかったが、われわれはみな、それ(禁止策)こそが解決策だと信じていたのだ。

 しかし20年にわたって失敗が続き、進展もないのを見、さらに国連が10年ごとに麻薬消費の撲滅を宣言してもそれが裏切られ、なにも変わらず、むしろ消費は増えているのを見てきて、私はもう考え方を変えるべきときだと思ったのだ。私はなにも後悔はしていない。問題を振り返ってみてわかったのは、麻薬の使用は犯罪として扱うべきではない、しかし密輸は犯罪だということだ。